日本一パンの消費量が多いまち・大津市で、パン作りに関わる人や店を紹介します。
2016~18年の食パンとそのほかのパンの合計消費量が47都道府県の県庁所在地と指定都市の中で大津市が1位になり、年間の平均消費量は55.6キロで全国平均を24%上回っています。(総務省家計調査)
瀬田にある「パン工房ロゼッタ」は幸せな気分になるパンの匂いに包まれたお店です。
人を幸せにするパンの匂い
イタリアンのシェフになるために調理師の専門学校に通っていた遠田育人さんとのパンとの出合いは13年前。とりあえずのつもりで、パン店で働き始めたことがきっかけでした。
パン作りの修業をしていくうちに、温度によって違うものができたり、ほんの少しの差でフランスパンの割れ方が変わったりすることを発見し、パン作りの面白さに気付いた遠田さんは修業を続け、2008(平成20)年、32歳の時に独立して「パン工房ロゼッタ」を開店しました。
店名の由来となった「ロゼッタ」はイタリアの伝統的なパンで、「小さなバラ」を意味します。真ん中に丸い突起があり、亀の甲羅のような模様がついているパンで、バラの形に似ていることからロゼッタと呼ばれています。バラのような模様は生地に花の形の押し型を押し付けて作ります。
修業中だった遠田さんが新婚旅行でイタリアに行くことになり、師匠から「ロゼッタの押し型を探してきてほしい」と言われました。遠田さんは「探してもなかなか見つからず、新婚旅行の間、ずっとイタリアを探し回りました」と振り返ります。
現在はロゼッタが店頭に並ぶことはありませんが、イタリア中を探し回った思い出のパンの名前を店名に付けたそうです。
「ロゼッタ」では、パンはショーケースの中に入れて販売します。「衛生的にも良く、ショーケース越しにお薦めのパンの話をすることもできます」と話します。
朝5時に仕込みを始め、午前中には約40種類のパンが焼き上がります。遠田さんは「パンの焼ける匂いは人を幸せにする」と笑顔を見せます。
モンゴルの岩塩やてんさい糖、滋賀県産薄力粉、北海道産小麦のクラッシックなど素材を使い、「それぞれのパンが一番おいしい状態になるように焼き加減や水の量を調整して、丁寧なパン作りを心掛けています」とパン作りのこだわりを話します。
店主お気に入りのシナモンロール
遠田さんのお薦めのパンは「店主お気に入りのシナモンロール」。「シナモンが利いていて、アーモンドクリームがしっとりしていて、砂糖のサクサクとした食感が好きで、お昼ご飯によく食べています」と話します。
「食べた時に中の具が少ないとがっかりする」との思いから、フィリングの量は多め。一口目からクリームの味を楽しめるようにカスタードとホイップクリームをはち切れる寸前まで入れた「ばくだん」は「インパクトがあり、持った時の期待感がある」クリームパン。いったん販売をやめた時には「ばくだんないの?」との声が多く、すぐに復活したほどの人気商品になりました。
最近は、健康志向の高まりから、グラハムやライ麦パンを購入する客が増えたそうです。琵琶湖で東京五輪の事前合宿を行っていたニュージーランド代表ボートチームが毎朝、グラハムなどのロゼッタのパンを食べていました。
ニュージーランド代表チームは女子エイトで銀メダルを獲得し、そのうち2人がペアで金メダルを獲得しました。この8人が特に「おいしい」とよくパンを食べていたそうです。
クリスマスにはシュトーレンを
毎年11月中旬から12月31日まで、ドイツの伝統的な焼き菓子シュトーレンを提供しています。元々のレシピは45分間焼くものでしたが、「しっとり感を残したい」としっかり焼けるが水分が残る焼き加減を研究し、焼き時間を30分にしました。シュトーレンの特徴であるスパイスや酒の使用量を抑え、クセが少なく、子どもにも食べやすい味にしました。
オープン時からシュトーレンを並べ、今ではクリスマスを待ち望んで食べる季節の定番商品になりました。
大津市の女性は「ベーグルの種類が多く、パリッとしていてもっちりしている食感が良くていつも買いに来る」と話します。クランベリー、ストロベリーチョコ、プレーン、クリームチーズレモンなどのベーグルがあり、売り切れることも多く、どのベーグルに出合えるかはタイミング次第。
「これからも店にお越しいただくお客さんを大事にしていきたい」と話す遠田さん。「小さなバラ」のようにかわいく、幸せな気分になるパンを今日も提供します。
パン工房 ロゼッタ
滋賀県大津市萱野浦22-28エンゼルプラザ瀬田101
TEL:077-545-5757
定休日:月曜・第3火曜
営業時間:8:00~19:00
取材・文・撮影=山中輝子