大津市の「大津百町百福物語」は2015(平成27)年に大津商工会議所が始めた特産品の認定制度です。1月に新たに7点が追加され、現在までに53点が認定を受けています。
大津が生み出した素材、歴史、文化、技術などに深く関わりを持つものを中心に、「高い品質である」と認められた食品と工芸品を大津商工会議所が「大津百町百福物語」ブランドとして認定しています。
びわ湖大津経済新聞では、地元で愛される「大津百町百福物語」認定商品に携わる人にスポットを当て、特集記事を公開していきます。
「一子相伝」のふなずし作り
第9回は「元祖 阪本屋」(大津市長等)の「ふなずし」です。千数百年の歴史を持つ琵琶湖の特産品のふなずしは、塩漬けしたフナと米を漬け込み発酵させる「なれずし」で、滋賀県に伝わる伝統食です。
1月20日には、ふなずしを含む「近江のなれずし製造技術」が、国の登録無形民俗文化財に登録されました。
阪本屋では、琵琶湖産の天然のニゴロブナと近江米のみを使い、春に琵琶湖唯一の有人島である沖島(近江八幡市)や長浜市などの北湖で捕れたメスのニゴロブナを仕入れ、卵を傷付けないように内臓を取り出し、塩漬けにします。夏までに塩を取り出し、炊いたご飯を詰めて発酵させると、冬から春に漬け上がります。
阪本屋の専務、内田真太郎さんは「阪本屋のふなずしはほかの店と味も匂いも違いますが、それは漬ける工程に秘密があります。子どものころから家業を手伝ってきましたが、漬け込む工程だけは父が担当し、教えてもらえませんでした。店を継ぐと決めてから教えてもらい、阪本屋の味が出せるのは、この工程があるからだと知り、やっと本当の意味で店を手伝っていると実感しました」と話します。
初代から店を継ぐ者だけに伝えられる「一子相伝」の工程を受け継ぎ、阪本屋の伝統の味は守られています。
滋賀県の食文化を守りたい
ふなずしに使うのは琵琶湖で捕れたニゴロブナです。20年前、内田さんが高校生の頃には「ふなずしを作り続けることは難しいから、家業は継げないと思って大学に進学するように」と言われるほどにフナの漁獲量が激減しました。
外来魚の駆除や稚魚の放流により、絶滅の危機は免れていますが、全盛期に比べると少ないとのこと。
内田さんは「琵琶湖の水が循環する『琵琶湖の深呼吸』が3年ぶりに確認されたというニュースを聞いて、魚の漁獲量が増えると期待しましたが、水が冷たすぎて魚や貝が育たず漁獲量が減ってしまいました」と振り返ります。
「さまざまな要因が重なって魚の漁獲量が減っていますが、フナが捕れる限りは続け、滋賀県独自の食文化を守っていきたい。祖父、父だけでなく先祖から伝わってきた阪本屋のふなずしを作り続けたい」と話します。
近年、阪本屋のふなずしを求めて、日本国内だけでなく海外からも観光客が来るようになりました。内田さんは「国内だけでなく、海外からも、ふなずしを目的に来てくれる人がいます。ふなずしを買うために大津に来て、大津の観光もしてもらいたい。滋賀県の食べ物を滋賀県で売り続けることに意味があると思います」とふなずしで地域振興を目指します。
国の登録有形文化財に指定されている元祖阪本屋の店舗
湖魚の佃煮なども提供している
元祖 阪本屋
滋賀県大津市長等1-5-21
077 - 524 - 2406
営業時間 9時~18時
日曜定休
取材・文=山中輝子