大津市の「大津百町百福物語」は2015(平成27)年に大津商工会議所が始めた特産品の認定制度です。1月に新たに7点が追加され、現在までに53点が認定を受けています。
大津が生み出した素材、歴史、文化、技術などに深く関わりを持つものを中心に、「高い品質である」と認められた食品と工芸品を大津商工会議所が「大津百町百福物語」ブランドとして認定しています。
びわ湖大津経済新聞では、地元で愛される「大津百町百福物語」認定商品に携わる人にスポットを当て、特集記事を公開していきます。
日本茶のルーツを守る「日吉茶園」
第10回は中川誠盛堂茶舗(大津市中央)の「日吉茶園」と「近江赤ちゃん番茶」です。
京阪電車坂本比叡山口駅の前にある小さな茶園「日吉茶園」。日吉大社(大津市坂本)に伝わる文献によると、805(延暦24)年に最澄が中国浙江省天台山から茶種を持ち帰り、比叡山の麓にまいたとされています。毎年5月には日吉大社で「茶摘祭」が行われ、日吉茶園の茶葉を収穫し、延暦寺で営まれる法要「長講会(ちょうこうえ)」や日吉大社の山王祭の献茶式で使われています。
日吉茶園にある茶の木は20本ほど。中川誠盛堂茶舗の店主、中川武さんは「道路拡張工事のため、茶園が縮小されるという話もあり、何とかDNAを残せないかと思っていた」と振り返ります。甲賀市の茶専作農家の立岡啓(あきら)さんが日吉大社から茶園の枝を譲り受け、甲賀市の茶園で栽培し、2017(平成29)年に初収穫。中川誠盛堂茶舗で販売を始めました。
中川さんは「日吉茶園の茶は甘みがあり、おいしい」と話します。「滋賀が日本茶のルーツであるという歴史を広く知ってもらいたいが、誰かが残さないと消えてしまう。栽培してくれる立岡さんのおかげで伝統を守ることができた」と感謝します。
日吉茶園は中川誠盛堂茶舗本店と比叡山延暦寺、滋賀のアンテナショップ・ここ滋賀(東京都中央区)のみで販売しています。
厳冬期に収穫する「近江赤ちゃん番茶」
近江赤ちゃん番茶は雪解けを待って厳冬期に収穫する「春番茶」で、9月から11月に刈り取る「秋番茶」と比べて茶葉が厚く、丈夫で味が濃く、甘みがあるのが特徴。中川さんは「赤ちゃんは苦いと飲まないが、近江赤ちゃん番茶は甘く渋みを感じません。寒い季節で虫の発生もなく、農薬をかけずに育てることができます。寒さから守るために茶の木の糖分が葉に上がり、カフェインが根に行くことから、カフェインもほとんど含まれていません」と話します。
中川誠盛堂茶舗では、刈り取った茶葉を蒸し、もまずに乾燥させて自家製の釜でいって仕上げていて、本店の前にある釜からは茶葉をいる香りが立ち上ります。
中川さんは「茶葉に含まれる成分を効果的に採るために、水出しで飲むことをお勧めします。水に茶葉を入れ、一晩おくと翌朝には出来上がります」と話します。
本物が持つ世界を味わってもらいたい
店内には、日本茶の煎茶100種類、ほうじ茶10種類、中国茶40種類、紅茶40種類の茶と茶器が並びます。日本茶は全てブレンドではなく、茶園ごとの茶葉で販売。
中川さんは「水や茶器で味が変わります。地元の土で作った茶器で、地元の水で飲むのが一番おいしい。滋賀の茶は信楽の土を使った茶器で、滋賀の硬度40ほどの水でいれるとおいしくなる」と話します。
神戸市から店に通う阪本直裕さんは「茶の種類が多く、おいしい茶を置いている店。茶や茶器を見て勉強している」と話します。
カフェ「茶と菓と いい日」(兵庫県芦屋市)店主の松本康生さんや日本料理店「天若(てんじゃく)」(京都市)店主の西岡瞭さんなど、滋賀の茶を求めて足しげく通う若い料理人も。中川さんは「添加物の入った茶も出回っているが、祖父から『正直に商売をしなさい』と言われたので、消費者を裏切らない商売をしています。茶の渋み、じわっとくる甘みなど、今の若い人に本物だけが持つ世界を知ってもらいたい」と話します。
中川誠盛堂茶舗(なかがわせいせいどうちゃほ)
本店
滋賀県大津市中央3-1-35
077-522-2555
営業時間 9時~19時
日曜・祝日定休
長等店
滋賀県大津市長等2-8-1
077-525-6156
営業時間9時30分~17時
日曜・祝日定休
取材・文=山中輝子