大津が生み出した素材、歴史、文化、技術などに深く関わりを持つものを中心に「高い品質である」と認められた食品と工芸品を大津商工会議所が「大津百町百福物語」ブランドとして認定しています。2015(平成27)年に大津商工会議所が始め、現在までに53点が認定を受けています。
びわ湖大津経済新聞では、地元で愛される「大津百町百福物語」認定商品に携わる人にスポットを当て、特集記事を公開していきます。
「おうちでお茶を♪」コロナ禍で増えた「おうち時間」に楽しむお茶
第18回は膳所にある茶葉専門店「中山製茶」の「近江茶箱」と「#おうちでお茶を♪中山製茶のティーバッグ」です。
国道1号線沿いにある中山製茶には、玉露、煎茶、ほうじ茶などの茶葉の量り売りだけでなく、ティーバッグ入りのほうじ茶や抹茶ラテなども店頭に並べ、常連客から旅行客、子ども連れの女性までさまざまな人が訪れます。
「大津百町百福物語」認定商品の「#おうちでお茶を♪中山製茶のティーバッグ」は、コロナ禍で生まれた商品。煎茶とほうじ茶が三角形のティーバッグに入っている商品で、急須がなくても気軽に飲むことができます。中山製茶の社長、中山智代さんは「家で過ごす時間が長くなり、丁寧に暮らしたい人が増え、家でゆっくりお茶を飲みたいという人に響いたようです」と話します。
「茶葉を選び、お茶をいれて飲むという時間も含めて求められていると感じました」と振り返ります。
「コロナ禍で帰省できないから実家にお茶を送りたい」と買い求める人もいたそうです。「大切な人にお茶を届けたいと思ってもらえたことがうれしかった」と笑顔を見せます。
敷居の低い茶葉専門店に
中山製茶の始まりは江戸時代。大津市大石龍門で茶葉農家としてスタートしました。1956(昭和31)年に大津市の京町通に製造直販の茶葉専門店をオープン。1979(昭和54)年に膳所店を開店し、1987(昭和62)年からは膳所店が本店に。
1999(平成11)年に中山さんが引き継いでからは「茶葉専門店は敷居が高そうというイメージを払しょくしたい」と気軽に飲めるティーバッグ入りのお茶や、手に取りやすいパッケージの商品を販売し始めました。
「自分なら家族にどんなお茶を飲んでほしいかを考えて商品開発を始めました」と話す中山さん。「子どもが寝てから大人が2人でゆっくり飲む手軽で本格的なお茶」として提供しているのが「大人のほうじ茶」。カフェインの少ない摘採期の茶葉を焙煎(ばいせん)することで、さらにカフェインを低減したほうじ茶です。
大津のお茶の歴史を伝えたい
もう一つの「大津百町百福物語」認定商品は「近江茶箱」。茶葉は全て滋賀県産で、「比叡の香」と「にほのうみ」は煎茶、「あふさかのせき」は和紅茶、「あきのたの」はほうじ茶が三角形のティーバッグに入っています。
ネーミングは大津市にちなみ、「にほのうみ」は鳰海(におのうみ・水鳥の集まる湖)、琵琶湖の別名。「あふさかのせき」は蝉丸が詠んだ「これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関」から、「あきのたの」は近江神宮に祭られている天智天皇が詠んだ「秋の田の仮庵(かりほ)の庵(いほ)の苫(とま)をあらみわが衣手は露にぬれつつ」から名付けました。
日吉大社(大津市坂本)に伝わる文献によると、805年に最澄が中国浙江省天台山から茶種を持ち帰り、比叡山の麓にまいたとされ、大津市から日本茶の歴史が始まりました。
中山製茶がある膳所は、江戸時代には茶園が広がり、茶の産地でした。1853年に米艦(黒船)が浦賀に来航した時に幕府に随行していた膳所藩の蘭学者がペリーに「貴国においてはコーヒーのような飲み物はないのか」と問われた際に膳所茶を提供。ペリーが膳所茶を気に入ったことから、膳所茶は生糸と共に米国に輸出されることになったそうです。
「大津の茶の歴史も皆さんに伝えたい」と歴史やいれ方などのワークショップ「茶の学校」も開いています。
中山さんは「渇きを満たすだけのお茶ならどこでも手に入れられますが、豊かな時間を過ごしたいと思っているお客さま一人一人の思いに応えられるお茶屋でありたい」と話します。
中山製茶
大津市中庄2丁目1-58
077-523-2335
営業時間 9時~19時
日曜・祝日定休
取材・文=山中輝子