「見る」だけでない美術鑑賞を提案する企画展「“みかた”の多い美術館展 さわる知る読む聞くあそぶ はなしあう 『うーん』と悩む 自分でつくる!」が現在、滋賀県立美術館(大津市瀬田南大萱町)で開催されている。
「本当の意味で美術館をあらゆる人々のための場所にする」ことを目的に、美術館に来館しづらい人の意見を取り入れ、8個の「みかた」で県立美術館のコレクションを中心に展示。
通常の展示と異なり、会場内で会話することを推奨している。「おはなしして、みる」のコーナーでは、2歳と4歳の子どもがいる遠藤綜一さん、真奈世さん夫婦の「話しかけながら鑑賞したいが、作品のことを知らないので何を話したらいいか分からない。幼児と一緒だと美術館に行きづらい」という意見を取り入れ、会場内での会話を促す「おはなしのたね」を作品の横に掲示している。
「好きなことをいって、みる」のコーナーでは、知的障がいのある人たちが作品を見て話した言葉をそのままキャプションとして掲示している。来館者も自分のコメントを付箋に書いて貼ることができる。鑑賞のハードルを下げるのが目的だという。
「さわったり、聞いたりして、みる」では、2021年に国立民族学博物館(大阪府吹田市)で開催された「ユニバーサル・ミュージアム-さわる!“触”の大博覧会」に出展された作品を中心に展示。たたいて音を出す陶芸作品「土の音」や、上に寝て背中で古墳を感じる「とろける身体(からだ)~古墳をひっくり返す」など触って鑑賞できる。
「見えない・聞こえない世界を考えて、みる」は、盲ろう者が作品を鑑賞する様子や百瀬文さんが聴覚障がい者の木下知威さんと対談した映像作品などを通して「彼らが世界をどのように受け取っているか」に思いをはせる展示となっている。
「絵の高さを下げて、みる」のコーナーは、全ての絵画作品が床上15センチほどの高さに展示されている。同館学芸員の山田創さんは「車いす利用者の意見を聞いて高さを決めた。私たちにとってのレギュラーが車いすユーザーにとっては常にイレギュラーで、それを逆転させてみることで作品の生々しさが増し、見た時のどきどき感が上がった」と話す。
「思い出して、みる」では作品の横に救護施設ひのたに園の利用者が話した「作品を見て思い出したこと」を掲示している。「美術館という場所に緊張していた人も、自身の思い出を話すことでリラックスして話をしてくれた。作品を受け取るときに自由に想起できると、この場に慣れていない人も自分らしく過ごせるのではないか」と山田さん。
「映えて、みる」のコーナーでは、大きくプリントした絵画作品を背景に自由に写真を撮影できる。ブラジル人学校「サンタナ学園」(愛荘町)に通う子どもたちの意見を取り入れた。保護者の就労に伴って来日した子どもたちの中には日本語を話せず、SNSでのやりとりがコミュニケーションの手段となっている子どももいることから、「SNSで気軽にシェアできれば美術館に行きたくなるのではないか」とも。
最後のコーナー「いっそ自分でつくって、みる」では、折り紙やスタンプ、マスキングテープ、毛糸などを使って自由に作品を作ることができる。以前、小さい子どもが書いたと思われる「わたしも かきたかった」という感想を受け取ったことがあり、作品を見て湧いてきた「作りたい」という気持ちにリアルタイムに答えられるようにしたという。
山田さんは「美術館に行くことは視覚的に見ることと密接に結び付いているが、見ることができない人はどうするのか、今まで美術館としてどう向き合ってきたのかを問われている。さまざまなな理由で美術館と距離のあった人たちと『どうすれば美術館で楽しく過ごせるのか』を意見交換して展覧会を作った。『こうみなければいけない』というハードルを下げ、全ての人に楽しんでもらいたい」と話す。
開催時間は9時30分~17時(入場は16時30分まで)。月曜休館。観覧料は大人=950円、高校生・大学生=600円、小学生・中学生=400円。11月19日まで。