プレスリリース

過去15万年間の日本海堆積物の花粉化石に関する研究成果が国際学術誌に公開されました。

リリース発行企業:滋賀県立琵琶湖博物館

情報提供:

琵琶湖博物館の林竜馬専門学芸員、北海道大学の入野智久准教授による共同研究の成果が国際学術誌で公開されました。

                    図1 日本海に面する隠岐島とスギ天然林

概要

・琵琶湖地域の森の変動と海の関係性を明らかにするため、日本海の大和海盆北部で採取されたKR07
 -12 PC-07堆積物の花粉化石の分析を行いました。
・「日本海暗色層」と呼ばれる東アジアモンスーンの温暖化時期には、日本列島の森から約300km離
 れた日本海まで、多くの花粉が運ばれて堆積していたことが明らかになりました。
・温暖化時期の中にも、スギ花粉が優占する時期と、落葉広葉樹花粉が優占する時期が認められ、そ
 れぞれの時期には異なったパターンの森と気候が成立していたことが示されました。
・本成果は地球惑星科学系の国際英文誌『Progress in Earth and Planetary Science』に掲載されま
 した。

論文情報

タイトル:Terrestrial vegetation and climate patterns during the dark layer depositions in the
     Japan Sea based on a pollen record from the KR07-12 PC-07 in the last
     glacial-interglacial cycle
著者:Ryoma Hayashi*, Tomohisa Irino(*は責任著者)
掲載誌:Progress in Earth and Planetary Science
オンライン掲載日:2025年7月17日    DOI: https://doi.org/10.1186/s40645-025-00726-2

論文のポイント

温暖化時期には日本列島から300km離れた
日本海まで花粉が運ばれていた!
 日本海の堆積物には、東アジアモンスーンの温暖化時期が黒色の泥層である「日本海暗色層」として記録されています。
 この「日本海暗色層」の中には、花粉化石が多く含まれており、日本列島の固有樹木であるスギやブナが優占していました。また、「日本海暗色層」の花粉化石は、琵琶湖堆積物の花粉化石と類似した変動パターンを示すことが明らかになりました。
 これらのことは、温暖化時期においては、琵琶湖地域を含む日本列島の森から約300km離れた日本海の大和海盆まで、多くの花粉が飛散もしくは海流に運ばれて堆積していたことを示しています。



図2 日本海堆積物のスギ花粉(バーは10μm)

温暖化時期の中にも2種類のパターンの
森と気候が成立していた!

 「日本海暗色層」の中には、スギ花粉が優占する暗色層(Cry-DL)と、落葉広葉樹花粉が優占する暗色層(TDB-DL)の2種類の花粉化石パターンが認められました。Cry-DLの堆積時期は年間を通して降水量が多く季節差の小さい気候でしたが、TDB-DLの堆積時期は季節差の大きい気候であったと考えられます。
 東アジアモンスーンの温暖化時期を示す「日本海暗色層」の中でも、スギが優占する森と落葉広葉樹が優占する森という、2種類の異なったパターンの森と気候が日本列島に成立していたことが明らかになりました。



図3 スギ優占期と落葉広葉樹優占期の陸上植生と気候のパターン

論文の意義

 琵琶湖周辺の森は過去の気候変動の影響を受けて大きくうつり変わってきたことが、陸上堆積物の花粉化石の研究から明らかになってきています。日本周辺での海の環境の変化が雨や雪の降り方を変えてしまうことが、森の変動を生み出す要因の一つと考えられています。
 本研究の成果から、温暖化時期には日本海の堆積物の中にも、日本列島の森から運ばれてきた花粉化石がきちんと残されていることがわかりました。陸と海の堆積物に記録された花粉化石を調べることで、森と海の変動の新たな関係性が明らかになることが期待できます。






*詳細は、琵琶湖博物館ホームページ「公表した研究成果の解説」でもご確認できます。

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