滋賀県生まれの写真家、川内倫子さんの個展「川内倫子:M/E球体の上 無限の連なり」が1月21日、滋賀県立美術館(大津市瀬田南大萱町)で始まった。
川内さんは1972(昭和47)年、滋賀県生まれ。2002(平成14)年に「うたたね」「花火」で第27回木村伊兵衛写真賞を受賞。柔らかい光をはらんだ独特の淡い色調が特徴。国際的な写真賞Sony World Photography Award 2023で特別功労賞を日本人で初めて受賞するなど、国内外で高く評価されている。
今回の個展は、東京オペラシティアートギャラリー(東京都新宿区)の巡回展。滋賀での大規模な個展の開催は初めて。この10年間の活動に焦点を当てて展示する。
川内さんは「30年前、初めて写真展を見に来たのが滋賀県立美術館(当時は滋賀県立近代美術館)。アートに触れる体験は特別で、背伸びができた。ここでの写真展は遠い世界のことだと思っていたので、憧れの場所で個展を開催できて感慨深い」と喜ぶ。
日本初公開となる「4%」シリーズ、6×6の正方形フォーマットで撮影された「An interlinking」シリーズ、生と死の境目に立っているゆらぎを表現した桃クロームの写真を展示する「One surface」、熊本県阿蘇の野焼きやイスラエルの嘆きの壁など自然への畏怖と人間の祈りに焦点を当てた「あめつち」シリーズ、2019年から取り組んできた新作シリーズの「M/E」の写真作品123点を展示。
展示するたびに新しく映像を追加していく「Illuminance」、会場内に小さく投影されている「Halo」、床に投影された「A whisper」、2画面で別の映像を投影する「M/E」の映像作品4点と、2011年4月に訪れた石巻、女川、気仙沼、陸前高田で撮影した22枚の写真をスライドショーにした「光と影」も展示する。
会場デザインを中山英之建築設計事務所が担当し、「M/E」のコーナーでは、170メートルの白い布を折り曲げてできたひだの中に作品を展示している。川内さんは「アイスランドの洞窟を撮影したときに感じた自分と地球とのつながりを見に来た人と共有したい、トンネルのような、かまくらのようなものを作りたいと中山さんに相談し、中山さんのアイデアで形になった」と振り返る。中山さんは「ミクロにもマクロにも、どんな大きさにも感じられる構造物にした」と話す。
東京オペラシティでは自然光を取り入れた展示をしていたが、自然光の入らない滋賀県立美術館では窓のようにくりぬかれた空間を活用して展示している。被災地を撮影した「光と影」はガラス窓の奥に展示。川内さんは「現地で見たリアリティーと、家に帰ってからテレビで見た被災地との距離感が表現できている。1つレイヤーがあることが自分の中のリアリティー」と話す。
滋賀県立美術館には、窓の外の庭園を見ることができる「ソファのある部屋」と呼ばれる休憩室がある。今回は、川内さんの作品「あめつち」を庭園の桜の木に設置し、ソファに座って窓の外の作品を鑑賞できるようにした。川内さんは「桜の木の枝が作品にかかるので最初は枝を切るという話も出たが、そのままにした。自然の一部として庭園とのコラボになり、いい空間になった」と話す。
内覧会に参加した兵庫県の安野谷美穂さんは、ソファに座って作品を鑑賞し、「作品を離れた距離で見るのもまた面白い」と話した。
企画展関連展示として、展示室2では「川内倫子と滋賀」と題して、川内さんが撮影した滋賀県内の写真を展示している。川内さんが3年間にわたって撮影した福祉施設「やまなみ工房」(甲賀市)で暮らす人の写真と共に、やまなみ工房の所属作家の作品も展示。展示しているのは3人の作家の作品で、山際正己さんの「正己地蔵」、井村ももかさんの「ボタンの玉」、酒井美穂子さんが一日中見つめ続ける「サッポロ一番しょうゆ味」に日付を記して保管している作品。
開館時間は9時30分~17時。観覧料は大人=1,300円、高校生・大学生=900円、小学生・中学生=700円。月曜休館。3月26日まで。「川内倫子と滋賀」は5月7日まで。