琵琶湖の固有種で絶滅危惧プランクトン種の「ビワコツボカムリ」が8月6日、学術誌「Species Diversity」に記載され、国際動物命名規約に基づいてネオタイプ(新基準標本)が指定された。
「ビワコツボカムリ」は有殻アメーバ類に属するアメボゾア(アメーバ動物)で、有殻アメーバとしては殻の長さが0.24 ミリ~0.38ミリと大きく、細長い一本の角を持ち、開口部は漏斗状に広がり、その縁は多少波打つという特徴的な殻を持つ。日本全国の淡水湖沼の調査からも琵琶湖以外ではみつからず、琵琶湖の固有種と考えられている。
1960年代には、琵琶湖のプランクトンの優占種となっていたが、琵琶湖の底質環境の変化などにより、1970年代から個体数が減少し、生きた個体は1981(昭和56)年10月に見つかったのを最後に発見されておらず、2005(平成17)年から滋賀県版のレッドデータブックに、絶滅危惧種として掲載された。
「ビワコツボカムリ」は、1918(大正7)年に川村多実二博士によって簡単なスケッチによって記載されたが、新たに種の学名を付けるための記載論文中で使用され、学名の基準として指定された標本であるタイプ標本を欠いていた。法政大学の島野智之教授と、滋賀県琵琶湖環境科学センター(大津市柳が崎)の一瀬論研究員を中心とする研究グループが、新たにネオタイプ指定を行い、当時行われていなかった電子顕微鏡観察や統計的解析を加え、再記載を行った。和名については、現在「ビワコツボカムリ」と「ビワツボカムリ」の両方が使われているが、初記載時に用いられた「ビワコツボカムリ」を和名として使うことを改めて提案した。
1961(昭和36)年8月15日に採取した「ビワコツボカムリ」をホルマリン固定した標本を、プレパラート標本にしたものがネオタイプ標本に指定され、国立科学博物館に収蔵された。証拠標本は国立科学博物館(東京都台東区)と琵琶湖博物館(草津市下物町)に収蔵された。
「ビワコツボカムリ」は中国の湖沼からも報告例があり、固有種でない可能性も示唆されていたが、形態計測に基づいた統計的解析により精査し、別種に相当する違いを見いだした。さらに研究を続け、真の琵琶湖固有種かどうかについて検討を続けるという。
一瀬研究員は「100年以上前に新種記載されたが、標本はなく、幻の生物だった。博物館に現物がなかったのが問題だったが、なかなか受理してもらえなかった。今回、古い資料を整理していて、現物を見つけた。国立科学博物館に収蔵したことで、ビワコツボカムリの標本が永久に残る。40年間琵琶湖のプランクトンを研究してきて、役に立てたことがうれしい」と話した。