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大津でハービー・山口さん講演会-展覧会会場で「人生と写真」を語る

定員150人を超える200人がハービー・山口さんの話に聞き入った

定員150人を超える200人がハービー・山口さんの話に聞き入った

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 滋賀県立近代美術館(大津市)で開催中の展覧会「ハービー・山口写真展~HIKARICAL SCAPE 雲の上はいつも青空」の企画イベントの一環として2月16日、講演会「人間を撮る~ロンドン、東京、3.11~」が開催された。会場となった同館講堂には定員を上回る約200人が詰め掛かけ山口さんの写真家としての人生の話に耳を傾けた。

時間があればファンとカメラのこと、撮影のことなど気さくに話す。すぐに山口さんを囲む輪ができる

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 山口さんは1950(昭和25)年東京都出身。生後間もなく腰椎カリエスを発症。10代終わりまでつらい時間を過ごす。大学卒業後、1973(昭和48)年に写真を勉強するため単身ロンドンに渡り10年を過ごす。パンクムーブメント真っただ中のロンドンでミュージシャンらと親交を重ねる。帰国後、1985(昭和60)年に写真集「LONDON AFTER THE DREAM」を発行。国内でも松任谷由実さん、山崎まさよしさん、福山雅治さんらミュージシャンとの親交も深い。独特の優しいモノクロームの世界に魅了されるファンも多い。この日の講演では自身の生い立ちや写真の原点、写真家としての使命、人物写真の撮影ノウハウなど参加者からの質問にも答えながら2時間にわたって静かに熱いトークを展開した。

 同展には20歳のころから最近のものまで山口さんの約40年にわたる作品が並ぶ。1番目に展示されている写真のタイトルは「一瞬の瞳/バレーボールをしているさよ」。1970(昭和45)年の作品だ。カメラを構える山口さんにボールがぶつかりそうになった時に気遣ってくれた少女さよさんの瞳の奥底に見えた優しさに「この表情を一生撮っていきたい」と山口さんは思ったという。この経験が写真の原点になっている。さよさんとはその後も写真を撮ったり海に出掛けたり幾度かの交流を重ねるが、イギリスに渡りそれっきり。山口さんにとって今も女神のように心に存在している。山口さんが詩を提供している布袋寅泰さんのファースト・アルバム「GUITARHYTHM」の中の「GLORIOUS DAYS」という曲は、さよさんとの淡い青春時代の思い出を書いたものだ。

 山口さんの写真の魅力は人物。自身でも「素直に撮ってる」と表現するスナップの被写体は皆、優しい目をしている。「街で美しい人や幸せそうなカップルを見つけると、どうしても撮りたくなる。一瞬後にはそのカップルは別れちゃうかもしれない。今笑っていても明日には不幸が来るかもしれない。そんな人の表情は刹那的。一生続くわけはないのだけど、一生続いたらいいなと願いを込める。ユートピアというか理想の社会を写真の中で描きたい」と語る。

 写真を楽しむ人々には「自分の撮りたい物を撮るのが一番いい。人でも風景でも『時流に流されず自流で撮る』。自分の流れに沿って撮るのがいい。人物撮影のコツは被写体が女性なら『一瞬の恋をすること』。するとその人のいいところを写してあげたいと思う。男性なら『僕ができなかった人生を歩んでいる憧れ』を抱けばいい。そしてシャッターを切る時にその人の幸せをそっと祈る。それが写真家の人格となってじわりとカメラの前にいてくれる方にふっと伝わった時にいい表情が浮かぶ」とアドバイスする。「初めからでっかいことを目指すのは、よほどの天才しかできない。われわれはちっちゃなことをコツコツと。でも、5年、10年やったら、意外とその小さなコツコツが大きな固まりになっている」とも。

 座右の銘は「撮りたいものがあれば全部撮れよ。それがパンクだぜ!」。ロンドンの地下鉄で偶然乗り合わせた人気バンド・クラッシュのボーカリスト、ジョー・ストラマーを車中で撮らせてもらい、電車から降りる際にジョーさんが山口さんに掛けた言葉だ。撮影をちゅうちょするが勇気を振り絞り声を掛け撮影できたこの時の経験を、高校生などにも話すという。「パンクのパの字も知らない若い世代、高校生とかにこの話をしても通じるんです。やりたいことに一生懸命ぶつかって、一つ一つやって行く。それがパンクなんだと。人の背中をポンと押してくれる言葉なんです」。

 講演の前から、山口さんの写真集が販売されているミュージアムショップの一角には多くの人だかりができていた。さまざまなカメラを手に集まったファンの輪の中で気さくに話し、撮影に応じる。ファンをとても大事にする。ツイッターやフェイスブックなどソーシャルメディアでもファンと積極的に交流する。滋賀での展覧会が始まった後に発見したツイートをうれしそうに紹介する。「今からハービーさんの写真展に行きます。忘れていたものを探しに」「見ました。なんとも切なく心に響きました。ぜひみなさん行ってください」。滋賀の人に対して「いいものに出会うとそれを正当に評価して発言する素直さが備わっている」と評価する。

 「ハービー」は20歳のころ、日本で参加していたバンドでのニックネーム。「病気が治った20歳くらいのときに最初から人生をやり直してみたいと思った。『ハービー』という名前で生きてもう一回人生やり直してもいいんじゃないか」との思いで使い続ける。「一見ネガティブだったものが実は僕を育ててくれた。僕が身体が強かったら今みたいな写真撮れてなかったかもしれない。病気でいじめられたからこそ、あったかい写真が撮れる。一見ネガティブなものをポジティブに転じる人生。われわれはそれをコントロールできるんです」と講演を締めくくった。

 甲賀市水口から来たという山中功人さんは「ハービーさん本人に初めて会ったが誰に対しても温かく、それが写真に出ているのだと感じた。今までは空の上の人のイメージだったが、小さいころからの話を聞いて励まされた」と、古いインスタントカメラを手に笑顔で感想を話す。

 同展は第1部「JAPAN」、第2部「EUROPE]の2部構成。被災地東北で撮られた「HOPE 311」シリーズや「LONDON」シリーズなど約150点の作品が出展されている。3月23日には「ハービー・山口 大人のカメラ教室」、24日には「ハービー先生の親子カメラ教室」(いずれも申込制)も開催される。

 開館時間は9時30分~17時(入館は16時30分まで)。月曜休館。観覧料(当日)は一般=950円、高大生=650円、小中生=450円。3月31日まで。

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