プレスリリース

先端半導体の発熱課題解決に向けた熱特性評価サービスを開始

リリース発行企業:株式会社東レリサーチセンター

情報提供:

【要旨】

株式会社東レリサーチセンター(所在地:東京都中央区日本橋本町一丁目7番2号、代表取締役社長:真壁芳樹、以下「TRC」)は、TDTR(Time-Domain Thermoreflectance:時間領域サーモリフレクタンス法)(※1)を用いて、ナノメートルオーダー(1ナノメートルは10億分の1メートル)の薄膜材料の熱伝導率(※2)および異種材料間の界面熱抵抗(※3)を定量評価する受託分析サービスを開始しました。これにより、生成AI(人工知能)、スーパーコンピューター、自動運転システムなどに用いられる先端半導体(最先端の製造技術で作られる高性能な半導体)の熱課題解決に向けた熱特性評価が可能になります。
近年、生成AI向け先端半導体やこれらを用いた先端パッケージの高性能化に伴い、半導体・電子デバイス(以下「デバイス」)内部の発熱対策が重要な課題となっています。一方、実際の薄膜の熱特性や界面の熱特性は、文献値や厚みのある一般的な材料の物性値とは異なる場合があり、熱シミュレーションや放熱設計の精度向上が求められています。
本サービスでは、実際の製造プロセスで形成された薄膜の熱伝導率と界面熱抵抗を直接評価し、放熱性能低下の要因解明や熱設計の最適化を支援します。さらに、TRCが有する構造解析・組成分析技術と組み合わせることで、熱特性変化の要因解析まで一貫して対応します。

【背景】

生成AIやスーパーコンピューターの普及、電動車向けパワー半導体の高性能化など、デバイスの高性能化・高集積化に伴い、消費電力は増大しています。投入された電力の多くは最終的に熱となるため、デバイスの高性能化・高集積化が進むほど、デバイス内部で局所的に蓄積する熱が増えて、デバイスの性能低下や信頼性の低下につながります。従って、発生する熱を効率よく外部へ逃がすことが重要になり、熱マネジメントは材料・デバイス開発における重要な課題となっています。
デバイスにはLow-k膜やHigh-k膜(※4) 、窒化ケイ素(SiN)など多様な薄膜材料が用いられていますが、その熱伝導率は膜厚や成膜条件、結晶構造などによって大きく変化します。また、複数の材料が積層して構成されるデバイスでは、異なる材料が接する界面の熱抵抗も放熱性能に大きく影響します。
一方で、従来の熱物性測定法では、ナノメートルオーダーの薄膜や界面の熱特性を直接評価することが難しく、文献値や厚みのある材料(バルク材料)の物性値に依存せざるを得ないケースがありました。しかし、これらの値と実際のプロセスで形成された薄膜の熱特性が異なると、デバイス内部の温度や熱の流れを正確に予測できない可能性があります。このため、実際のプロセスで形成された薄膜や界面の熱特性を直接評価できる技術へのニーズが高まっています。

【技術と分析例】

これに対してTRCは、超短パルスレーザーを利用した熱特性評価法であるTDTR法を用いて、ナノメートルオーダーの薄膜の熱伝導率と、薄膜・基板間などの界面熱抵抗を評価する受託分析体制を構築しました。
例1. 薄膜熱伝導率の評価
厚さ150 nmのニッケル(Ni)薄膜を評価した結果、熱伝導率は約50 W/m・Kとなり、一般的な厚みのあるニッケル材料の熱伝導率である約90 W/m・Kを大きく下回りました(図1)。これは、薄膜化に伴って熱の伝達を妨げる結晶の境界や材料の境目等、界面の影響が相対的に大きくなるためと考えられます。この結果は、実際の薄膜を評価することの重要性を示しています。

 図1 一般的なニッケル材料とNi薄膜の熱伝導率の比較

例2. 成膜条件による影響評価
TDTR法では、製造プロセス条件が熱特性に及ぼす影響も評価できます。成膜温度の異なる100 nm厚SiN薄膜を測定した結果、成膜温度の上昇に伴って熱伝導率が増加することを確認しました(図2)。これは、成膜温度の上昇に伴う緻密化により、熱の伝達を妨げる空隙が少なくなった可能性を示しています。
このように、製造条件と熱特性の関係を定量的に把握することで、材料設計や成膜条件の最適化に活用できます。

               図2 成膜温度の異なるSiN薄膜の熱伝導率評価例

デバイスでは、材料内部だけでなく材料同士の界面を介して熱が伝わります。本サービスでは、薄膜の熱伝導率と界面熱抵抗を組み合わせて評価できるため、デバイス内部の熱の流れをより実態に近い形で把握できます。その結果、熱シミュレーションの精度向上や放熱設計の最適化に活用できます。

【今後の展望】

TRCは、本サービスを通じて、先端半導体や電子材料の熱設計に必要な実測データを提供するとともに、熱特性評価と総合材料分析を組み合わせたソリューションにより、お客様の材料開発・プロセス開発・デバイス開発に貢献してまいります。

【用語説明】

(※1) TDTR(Time-Domain Thermoreflectance:時間領域サーモリフレクタンス)
超短パルスレーザーを試料表面に照射して瞬間的に加熱し、その後の温度変化を光の反射率の時間変化(図3)として測定する分析手法。熱伝導率が高い試料ほど熱が速やかに拡散するため、試料表面温度は短時間で低下する。この温度変化の挙動を解析することで、薄膜材料や、異なる材料が接する界面における熱の伝わりやすさを非接触で評価できる。従来法では測定が難しかったナノメートルオーダーの薄膜の熱伝導率や界面熱抵抗を定量的に評価できることから、半導体・電子材料の熱設計や放熱設計への活用が期待されている。

   図3 測定法の模式図(上)、熱伝導率の違いによる試料表面温度の時間変化のイメージ(下)

(※2)熱伝導率
材料の中を熱がどの程度伝わりやすいかを表す指標。値が大きいほど材料内部を熱が伝わりやすい。半導体や電子デバイスでは、内部で発生した熱を効率よく外部へ逃がすための材料設計や放熱設計に用いられる重要な物性値である。
(※3)界面熱抵抗
異なる材料同士が接する境界で、熱がどの程度伝わりにくいかを表す指標。材料そのものの熱伝導率が高くても、界面熱抵抗が大きい場合は界面で熱の流れが妨げられ、デバイス内部に熱が蓄積する原因となる。複数の材料が積層された半導体デバイスや電子部品の放熱性能を評価する上で重要な特性である。
(※4)Low-k膜やHigh-k膜
半導体デバイスの配線間やトランジスタ部分などに用いられる絶縁膜の一種。「k」は誘電率を表し、Low-k膜は誘電率が低い材料、High-k膜は誘電率が高い材料を指す。

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